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西デザインコンサルティング

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ニコン、クレッセントで広視野角ヘッドマウントディスプレイの開発


ニコン在職時、私が半導体露光装置の将来を不安視し、平成13年に新しい事業として考えたのがヘッドマウントディスプレイの開発です。

昨年12月まで、株式会社クレッセントさんと共同して、オーダーメイドの広視野角HMDを3カ月で作ることをうたい文句に、広視野角HMDのシステム設計、光学設計、メカ設計、組み立て作業を行ってきました。

そこまでの経緯を簡単にご紹介いたします。

平成13年当時もヘッドマウントディスプレイは市販されていましたが、液晶の画素数が現在の1/30程度で荒く、視野角も15度以下の製品でした。

色々な特許を検索し、広い視野角のヘッドマウントディスプレイを開発すれば、市場があると確信し、新しい事業として会社に提案したのが始まりです。

最初は予算がありませんでしたので、100円ショップで原理を確認できる材料を購入、光学試作1を作り、感覚的に「行ける!」と確信しました。

次に予算100万円を頂き、以下のような光学試作2を作成しました。

2台のプロジェクターを買い、プラスチックレンズ3枚を重ねて広視野角接眼レンズを作り、動画を広視野角で見えるようにしたのです。

HMD画像1


視野角は90度ぐらいだったと思います。これは相当な臨場感でしたので、社内で100人程のモニターに試作品をお見せしました。

その評価結果が好評だったので、私は一大決心をしました。

半導体事業部の時のように、「論理が曖昧な上司の判断で、開発の方向性が曲げられるのは嫌だ。契約社員になり、このHMD開発を会社との契約で認めさせ、自分も失敗が許されない覚悟で臨もう」と。

会社もそれを認めてくれて、私は契約社員となり、「HMDの開発を委託される」という立場で、新しい事業を開拓する「事業開発部」に移動し、開発をスタートさせました。

その「事業開発部」は新規事業の立ち上げを目指す5~6人のグループが数グループありました。

私は契約社員という立場だったので、事業部の部屋の一画を間借りし、1人で開発をスタートさせました。

前回の試作時に「きちんと試作した画像がみたい」という意見が多く、1000万円を予算申請して、以下のような光学試作3を作りました。

HMD画像1


これは視野角120度の接眼レンズで色収差補正も行っています。現在のHMDよりも光学性能が高く、見えは素晴らしいものでした。

HMD画像1


市場予想を上記のように設定し、液晶部や画像提供部分は、外部のコア技術を有するメーカと共同で開発する案を提示し、製品化に本格的に進む計画を立てました。

ここまでは順調に計画が進んでいると思っていました。

でも色々あり、私は会社を退職し、「広視野角HMD」の開発をスタートさせます。

詳細は

特許になるアイデアの発想実践


を読んでみて下さい。

会社を辞めてから直ぐにクレッセント社の小谷社長と会う機会がありました。

小谷社長はモーションキャプチャーの業界では第一人者で、モーションキャプチャーで使える広視野角のHMDを探していました。

私は広視野角HMDを世の中に広めたいと思っていたので、利害関係が一致しました。

小谷社長と私は「バーチャルアイ」という会社を設立し、広視野角HMDの開発を始めました。

当時は携帯電話の液晶画面は解像度が荒く、とても今のようなHMDに応用できる代物ではありませんでした。

フルハイビジョンを供給できる会社はプロジェクターを開発している会社のみ。色々打診をしましたが、どのメーカもプロジェクターのコア部品であるLCOS(反射型液晶)の提供を拒否。

唯一、話を聞いてくれたのが台湾のメーカでした。電気回路の設計、製造をして頂ける会社も見つかりました。

リアプロジェクター2台を搭載し、机上ではなく、頭部に搭載して120度視野角を見ることできる120度視野角HMDの開発がスタートしました。

会社を辞めてから3年後のことです。

HMD画像1


2007年に第1号機を展示会(VR展)に出しました。名前は「HEWDD」です。

が、LCOS供給メーカとの意思疎通が上手くいかず、結局動いたのは最終日のみで、画質も悪く3.5kgありました。

あまりにも重たいので、吊り下げ機構で吊り下げ、手で顔に装置を押し当てて動かしていました。

でも、視野角120度のHMD(解像度1280*720×2枚)をモーションキャプチャーシステム(VICON)と融合して世の中に出したのは、世界初だったと思います。

HMD画像1


それから日本のプロジェクター製造会社から、プロジェクターの販売が一段落したことで、LCOSの供給に合意のオファーが届きました。

2年後の2009年には改良を重ね、視野角は140度、解像度は片目で1280×768のハイビジョン、重さは1.95kgの補助なしに頭部に搭載して楽しめるHMDを展示会(VR展)に出すことができました。

HMD画像1


その5年後の2014年には、画質を上げるために視野角を120度に戻し、解像度は片目で1920×1080のフルハイビジョンを展示会(VR展)に出しました。

重さも1.3kgまで軽量化しました。

この頃は他にも広視野角の色々な方法を用いたHMDが展示されるようになっていました。

しかしどの会社のHMDも同様に大きく、売り上げが見込まれないまま撤退する会社が殆どでした。

クレッセント社は、HEWDDを継続すべく、「バーチャルアイ」をクレッセントが吸収合併するなど、色々な対策をとっていきました。

その成果もあり、トータル7年間で、海外を含む色々な展示会に数多く出品しました。テレビでもゴールデンの時間帯に数回紹介され、体験者も延べ数千人になったと思います。

産業用で値段は手作りのため800万円と高価でしたが、数社から引き合いがあり、販売実績も出せました。

この装置を紹介したYoutubeは10万件以上の再生回数を超えました。広視野角HMDの臨場感・没入感は誰もが認めることになり、値段が下がれば購入したいと思える環境が整っていました。

そこに出てきたのがOculusやViveという海外メーカーの広視野角HMDでした。スクリーンの位置に高画質の液晶ディスプレイを設置した、安くて軽量の広視野角HMDはすごい勢いで世の中に浸透していきました。

その時の流行語にも選ばれました。こうして2台のリアプロジェクターを搭載したHEWDDは7年の広視野角HMD普及の役割を終えました。

OculusやViveが普及したおかげで、我々でも高画質の液晶画面を購入することができるようになりました。

クレッセント社は3Dプリンターを購入し、お客様が欲しいと思うカスタムオーダーの広視野角HMDを、3ヶ月程で設計・製造できる体制を取りました。

当初は光学設計、メカ設計、電気設計全て外注に頼っていましたが、光学設計、メカ設計はコスト削減のため、全て私が行うようになっていました。

その時点で、本格的産業用HMDを開発できる日本で唯一の会社になっていました。今まで製造したHMDの外観、構造は以下のような感じです。

HMD画像1


その需要が結構多く、2019年まで何かしらのカスタムオーダー設計、製造を繰り返していたと思います。

でもコロナの影響で展示会が少なくなることで、その需要も減って行きました。

2020年には通信が5Gの時代に入り、大手の支配下にあるOculus、Viveがそれらを導入する進化を遂げることが分かり、もはや開発費が膨大で技術的に対抗できなく、開発が立ち行かなくなることが予想できました。

小谷社長の判断で、クレッセント社としての広視野角HMDの開発はストップすることになりました。

元々、クレッセント社の目的は「広視野角HMDをモーションキャプチャーで使うこと」でした。OculusやViveが使えれば、その目標は達成できます。

私の目標も「世の中に広視野角HMDを普及させること」でしたので、一応その目標は達成していました。

2020年末で、クレッセント社とのコンサルタント契約も終結となりました。私は既に還暦を迎えていました。丁度良い時期だったと思います。